
LiliumⅡも例外なく長い。フレームが長い。後輪駆動なのでチェーンも長い。
長いものは撓みやすい。
撓むということは力が逃げるということである。
つまり剛性の話である。
というわけで今回はリカンベントのフレーム剛性の話について独自にこねくり回してきた思考をまとめてみる。
くそ長文である。しかも以前つぶやいていたTwitterのまとめである。
読む価値があるかどうかわからない。数寄者は読むと良いよ。
自転車において剛性の話となると,大抵はチェーンステーやBB周りのドライブトレイン周りの剛性と,それに付随するハンドル~BBの剛性感の話になる。
しかしリカンベントとなると,思い切り長いフレームの,よりにもよって最先端から最後端までを,長ーいチェーンで弓のように引っ張るというなんともえぐい構造の乗り物である。
なので,弓みたいに撓むのである。冗談みたいだが撓むのだ。

カーボンフレーム初号機のLiliumⅠも例外なく撓んだ。横剛性が足らなかったのである。踏み込むとフレーム先端のBBが右に動いてるのが目視できた。右で踏もうが左で踏もうが撓むのである。カーボンという素材を過信しすぎた結果,構造的な強度の配慮を全然していなかったためである。
人間の脚力は想像以上に強い。その上クランクとチェーンリングでテコの原理で引っ張られるチェーンのテンションは尋常ではなくて,平気で8mmとか10mmの鉄心をひん曲げるし,靭性のない貧相なプラスチックで作ったアイドラープーリーはことごとく粉砕されるし,プラ部分が吹き飛んで残ったポールベアリングがアイドラー代わりに必死に頑張っても,ものの数分で外側シェルを砕いてしまう。(経験したんかい)
というわけで人間の脚力と,クランクのテコで引っ張られるチェーンのテンションは,貧相な脚であろうとびっくりするくらい高いのである。詳しい人にとっては当たり前の話なのだろうが,ちょっとやそっとでビクともしていなかった物が平気で変形したり粉砕していると衝撃的である。
じゃあそれに対抗するにはどうしたらよいかというと,素材的な観点とフレーム設計的な観点から考えていく必要がある。
まず素材的な観点から考える。
自転車の自作に使える素材はクロモリ鋼のパイプかカーボンくらいなもんである。高強度のクロモリ鋼のパイプを作ろうとしてもお家じゃ無理である。じゃあカーボンだけれど,高強度のカーボンは一般的なお家でホイホイ生成できるもんでもない。パイプの肉厚を増やしても根本的解決には全然ならない。
じゃあどうするかというと,フレーム設計に頼ることになる。
フレームの横剛性を高めるには,シンプルに幅を拡充させることである。幅を広げることで剛性を上げるのである。ロードバイクのフレームのパイプ幅がドンドン広がっていったのなんか良い例で,アレはパイプの肉厚を減らして軽量化を図りつつ剛性を上げるためである。なんならBB幅を広げてまでフレーム幅を取ろうとしている。
ロードバイクはレースで相手を打ち負かすための競技用戦闘機材なので,毎年毎年設計やトレンドが変わってハイサイクルでブラッシュアップしていくけれども,リカンベントはぶっちゃけ趣味機材でレースには出ないので,ブラッシュアップも設計変更ものんびりしてるもんである。レース機材なので売れるロードバイクと違って,レースに出られないリカンベントはそもそも研究開発費を割り当てられないのである。振興メーカーも出てきては売れずに立ち消えである。まぁ,あんまりトレンドがころころ変わってパーツが変わっていくと互換性が無くなって悲しくなるので嫌なのだけれども。
話がそれた。例として私のリカンベントを挙げると,Lilium1→2の変遷に見られる通り,フレームのパイプ径を拡大することである。Lilium1では最大φ35mmのカーボンパイプだったものを,Lilium2では倍近いφ60mmのパイプに置き換えている。


Lilium2ではカーボンで作ったラグを上からかぶせているので,局所的にはφ64~65mmほどもある。このフレーム幅の拡充により横の撓みというものは感じられないほどになった。Lilium1は一見トラス組に近く強度が高そうだが,縦方向のみで,上から見るとペラペラなので横方向には大変弱かったのである。
しかも貧脚しろねこさんにとってはトリプルクランクが欠かせない装備であった。トリプルクランクの場合,アウターチェーンリングは中心線から一層離れた位置に来てしまう。それはつまりチェーンで引かれる位置がフレームから離れてしまうので,撓む力がより一層かかるということになり,あえなくLilium1はポヨポヨと貧脚でもわかる程度に撓んだのだった。

なので,後継機では潔く単管パイプ構造とし,縦剛性の低下と引き換えに横剛性の拡充を図った。その結果がこのLiliumⅡなのである。
縦方向でのトラス構造が失われたので剛性が低下してしまいそうだが,パイプ径を十分取り,リププレートやガセットを要所に取り付ければ,十分強度を確保できると考えた。そもそも現行販売されているマスプロ製のリカンベントの中には単管パイプ構造のフレームもたくさんあるので前例はあったのである。
強度的に不安があるのであれば,パイプ大径化に加えてトラス構造にすれば良いのでは?と思われるのだが,強度が上がりすぎてカッチカチになると予想されるのと,ラグ点数が増え重量も相当増えてしまう上,パイプ大径化に伴ってトライアングルが小さくなってしまうので,構造的に単管パイプと大差がないため採用しなかった。
よってLiliumⅡではシンプルに単管パイプ構造として横方向の幅を拡充させる方策を取ったことにより,まったく問題がないレベルにまで剛性が上がり,しっかり踏み踏みしても撓まなくなったのである。めでたしめでたし。
……これで終わりの話ではなく。
ところで,構造体の強度を上げる方法としては,構造体そのものの幅を増やすというのが最も手っ取り早い方法なのであるけれども,実はそれ以外に強度というか剛性を上げる方法があるのである。コンパクト化だ。
力のかかる部分の大きさを出来るだけコンパクト化してあげると相対的にひずみが小さくなって歪まなくなるのである。同じ太さの木の棒でも,長い方が撓むし折れやすい。長いと力をかけやすくなるし撓み量も増えるが,短いと力をかけにくいし撓みにくくなる。モーメントアームはできるだけ短いほうが良いのだ。
まぁそんな単純な話ではないのだけれども,とりあえず力のかかる部分をコンパクト化すれば剛性は向上する。
その視点でNakagawaのNL-シリーズを見ていると非常に興味深いのである。

これ。これはNakagawaのNL-3だが,所有者の方,試乗した方曰く "きわめて剛性が高い" らしい。NakagawaのNLシリーズは,そっくりまねして作ってみたLilium1とパイプ径的には大差ないように感じる。
実際測ったことはないのだが,写真で見比べてもそんなに差があるようには見えない。しかしNLシリーズはドライブトレインの剛性が大変高いと言うのである。
だがしかし,センターBB方式を前提として考えていくと,ドライブトレイン周りの剛性が高い理由がおのずと見えてくる。
(ここからわりかし独自研究で設計者と仕様要求者の話は聞いてないから話半分で聞いてね。)
この,NakagawaのNL-シリーズが採用するセンターBB方式のリカンベントは,構造体としては2つのセクションに分けて考えることができる。どこで分けるかというと,フレームのセンターにあるBBである。ここから前のドライブトレインと後ろのドライブトレインに分けることができる。

この構造が,剛性を高くする要因としてとても大事なのである。

図示するとわかるように,前側のドライブトレインはフレームの半分だけ左側を引き,後ろのドライブトレインはロードバイクのリアとほぼ同じ構造であり,ロードバイクのトライアングルフレーム同様の力が加わる。こうなってくると前半分の歪みはフレームの半分しか歪まず,後ろに至っては三角形が構成されてるのでなおのこと歪みにくい。Lilium1で直面したフレーム全体の撓みはこれで随分低減されると考えられる。
さらにこれを裏付けるかの如く,NL-1からNL-3にかけてセンターBBの位置は前の方に移動し,センターBBから前と後ろのチェーンライン配分は半々程度まで変化している。

NL-2は後ろより。

NL-3は前に移動しほぼセンターへ。前へ移動したことで前後のドライブトレイン配分は半々程度になる。ロードラグの流用で作られているとはいえ,この変化は意図的であろう。
と思っていたら実際は違う可能性が出てきたので,BB移動の意図と剛性向上の因果関係は眉唾話。とはいえこの構造が剛性向上に寄与しているのは間違いないだろうと思われる。
さらにこの形式は,先端のチェーンリングで変速する必要がない,というか特殊構造にしないと出来ないので,基本的にはピスト用のチェーンリングやクランクを入れることになる。ピスト用のドライブトレインは多段用のドライブトレインと違って伝達効率が高い。
そして,ピスト用のクランクとBBはチェーンラインをできるだけ中央に寄せることができる。わずか十数ミリ~数ミリメートルとはいえ,チェーンラインを中央線に寄せることができるのならば,その分モーメントアームは短くなり,撓みにくくなるのである。何より,横方向に三角形が作れない前側のチェーンラインを中央に寄せることができるのはとても大きい。