人気ブログランキング | 話題のタグを見る

リカンベントの よこごうせいについて

 リカンベントはとにかく全長が長い車両だということは皆さんよくご存じだと思う。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_22522400.jpg

 LiliumⅡも例外なく長い。フレームが長い。後輪駆動なのでチェーンも長い。

 長いものは撓みやすい。

 撓むということは力が逃げるということである。

 つまり剛性の話である。

 というわけで今回はリカンベントのフレーム剛性の話について独自にこねくり回してきた思考をまとめてみる。

 くそ長文である。しかも以前つぶやいていたTwitterのまとめである。

 読む価値があるかどうかわからない。数寄者は読むと良いよ。


 自転車において剛性の話となると,大抵はチェーンステーやBB周りのドライブトレイン周りの剛性と,それに付随するハンドル~BBの剛性感の話になる。

 しかしリカンベントとなると,思い切り長いフレームの,よりにもよって最先端から最後端までを,長ーいチェーンで弓のように引っ張るというなんともえぐい構造の乗り物である。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23560309.jpg

 なので,弓みたいに撓むのである。冗談みたいだが撓むのだ。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_22243861.jpg

 カーボンフレーム初号機のLiliumⅠも例外なく撓んだ。横剛性が足らなかったのである。踏み込むとフレーム先端のBBが右に動いてるのが目視できた。右で踏もうが左で踏もうが撓むのである。カーボンという素材を過信しすぎた結果,構造的な強度の配慮を全然していなかったためである。

 人間の脚力は想像以上に強い。その上クランクとチェーンリングでテコの原理で引っ張られるチェーンのテンションは尋常ではなくて,平気で8mmとか10mmの鉄心をひん曲げるし,靭性のない貧相なプラスチックで作ったアイドラープーリーはことごとく粉砕されるし,プラ部分が吹き飛んで残ったポールベアリングがアイドラー代わりに必死に頑張っても,ものの数分で外側シェルを砕いてしまう。(経験したんかい)

 というわけで人間の脚力と,クランクのテコで引っ張られるチェーンのテンションは,貧相な脚であろうとびっくりするくらい高いのである。詳しい人にとっては当たり前の話なのだろうが,ちょっとやそっとでビクともしていなかった物が平気で変形したり粉砕していると衝撃的である。

 じゃあそれに対抗するにはどうしたらよいかというと,素材的な観点とフレーム設計的な観点から考えていく必要がある。

 まず素材的な観点から考える。

 自転車の自作に使える素材はクロモリ鋼のパイプかカーボンくらいなもんである。高強度のクロモリ鋼のパイプを作ろうとしてもお家じゃ無理である。じゃあカーボンだけれど,高強度のカーボンは一般的なお家でホイホイ生成できるもんでもない。パイプの肉厚を増やしても根本的解決には全然ならない。

 じゃあどうするかというと,フレーム設計に頼ることになる。

 フレームの横剛性を高めるには,シンプルに幅を拡充させることである。幅を広げることで剛性を上げるのである。ロードバイクのフレームのパイプ幅がドンドン広がっていったのなんか良い例で,アレはパイプの肉厚を減らして軽量化を図りつつ剛性を上げるためである。なんならBB幅を広げてまでフレーム幅を取ろうとしている。

 ロードバイクはレースで相手を打ち負かすための競技用戦闘機材なので,毎年毎年設計やトレンドが変わってハイサイクルでブラッシュアップしていくけれども,リカンベントはぶっちゃけ趣味機材でレースには出ないので,ブラッシュアップも設計変更ものんびりしてるもんである。レース機材なので売れるロードバイクと違って,レースに出られないリカンベントはそもそも研究開発費を割り当てられないのである。振興メーカーも出てきては売れずに立ち消えである。まぁ,あんまりトレンドがころころ変わってパーツが変わっていくと互換性が無くなって悲しくなるので嫌なのだけれども。

 話がそれた。例として私のリカンベントを挙げると,Lilium1→2の変遷に見られる通り,フレームのパイプ径を拡大することである。Lilium1では最大φ35mmのカーボンパイプだったものを,Lilium2では倍近いφ60mmのパイプに置き換えている。
リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23103444.jpg
リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23104261.jpg

 Lilium2ではカーボンで作ったラグを上からかぶせているので,局所的にはφ64~65mmほどもある。このフレーム幅の拡充により横の撓みというものは感じられないほどになった。Lilium1は一見トラス組に近く強度が高そうだが,縦方向のみで,上から見るとペラペラなので横方向には大変弱かったのである。

 しかも貧脚しろねこさんにとってはトリプルクランクが欠かせない装備であった。トリプルクランクの場合,アウターチェーンリングは中心線から一層離れた位置に来てしまう。それはつまりチェーンで引かれる位置がフレームから離れてしまうので,撓む力がより一層かかるということになり,あえなくLilium1はポヨポヨと貧脚でもわかる程度に撓んだのだった。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_22421161.png

 なので,後継機では潔く単管パイプ構造とし,縦剛性の低下と引き換えに横剛性の拡充を図った。その結果がこのLiliumⅡなのである。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_22492979.jpg

 縦方向でのトラス構造が失われたので剛性が低下してしまいそうだが,パイプ径を十分取り,リププレートやガセットを要所に取り付ければ,十分強度を確保できると考えた。そもそも現行販売されているマスプロ製のリカンベントの中には単管パイプ構造のフレームもたくさんあるので前例はあったのである。

 強度的に不安があるのであれば,パイプ大径化に加えてトラス構造にすれば良いのでは?と思われるのだが,強度が上がりすぎてカッチカチになると予想されるのと,ラグ点数が増え重量も相当増えてしまう上,パイプ大径化に伴ってトライアングルが小さくなってしまうので,構造的に単管パイプと大差がないため採用しなかった。

 よってLiliumⅡではシンプルに単管パイプ構造として横方向の幅を拡充させる方策を取ったことにより,まったく問題がないレベルにまで剛性が上がり,しっかり踏み踏みしても撓まなくなったのである。めでたしめでたし。

 ……これで終わりの話ではなく。

 ところで,構造体の強度を上げる方法としては,構造体そのものの幅を増やすというのが最も手っ取り早い方法なのであるけれども,実はそれ以外に強度というか剛性を上げる方法があるのである。コンパクト化だ。

 力のかかる部分の大きさを出来るだけコンパクト化してあげると相対的にひずみが小さくなって歪まなくなるのである。同じ太さの木の棒でも,長い方が撓むし折れやすい。長いと力をかけやすくなるし撓み量も増えるが,短いと力をかけにくいし撓みにくくなる。モーメントアームはできるだけ短いほうが良いのだ。

 まぁそんな単純な話ではないのだけれども,とりあえず力のかかる部分をコンパクト化すれば剛性は向上する。

 その視点でNakagawaのNL-シリーズを見ていると非常に興味深いのである。 

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23035716.jpg

 これ。これはNakagawaのNL-3だが,所有者の方,試乗した方曰く "きわめて剛性が高い" らしい。NakagawaのNLシリーズは,そっくりまねして作ってみたLilium1とパイプ径的には大差ないように感じる。
リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23071328.jpg
 実際測ったことはないのだが,写真で見比べてもそんなに差があるようには見えない。しかしNLシリーズはドライブトレインの剛性が大変高いと言うのである。

 だがしかし,センターBB方式を前提として考えていくと,ドライブトレイン周りの剛性が高い理由がおのずと見えてくる。

 (ここからわりかし独自研究で設計者と仕様要求者の話は聞いてないから話半分で聞いてね。)

 この,NakagawaのNL-シリーズが採用するセンターBB方式のリカンベントは,構造体としては2つのセクションに分けて考えることができる。どこで分けるかというと,フレームのセンターにあるBBである。ここから前のドライブトレインと後ろのドライブトレインに分けることができる。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23334734.png

 この構造が,剛性を高くする要因としてとても大事なのである。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23355779.png

 図示するとわかるように,前側のドライブトレインはフレームの半分だけ左側を引き,後ろのドライブトレインはロードバイクのリアとほぼ同じ構造であり,ロードバイクのトライアングルフレーム同様の力が加わる。こうなってくると前半分の歪みはフレームの半分しか歪まず,後ろに至っては三角形が構成されてるのでなおのこと歪みにくい。Lilium1で直面したフレーム全体の撓みはこれで随分低減されると考えられる。

 さらにこれを裏付けるかの如く,NL-1からNL-3にかけてセンターBBの位置は前の方に移動し,センターBBから前と後ろのチェーンライン配分は半々程度まで変化している。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23384273.jpg

 NL-2は後ろより。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23035716.jpg

 NL-3は前に移動しほぼセンターへ。前へ移動したことで前後のドライブトレイン配分は半々程度になる。ロードラグの流用で作られているとはいえ,この変化は意図的であろう。

 と思っていたら実際は違う可能性が出てきたので,BB移動の意図と剛性向上の因果関係は眉唾話。とはいえこの構造が剛性向上に寄与しているのは間違いないだろうと思われる。

 さらにこの形式は,先端のチェーンリングで変速する必要がない,というか特殊構造にしないと出来ないので,基本的にはピスト用のチェーンリングやクランクを入れることになる。ピスト用のドライブトレインは多段用のドライブトレインと違って伝達効率が高い。

 そして,ピスト用のクランクとBBはチェーンラインをできるだけ中央に寄せることができる。わずか十数ミリ~数ミリメートルとはいえ,チェーンラインを中央線に寄せることができるのならば,その分モーメントアームは短くなり,撓みにくくなるのである。何より,横方向に三角形が作れない前側のチェーンラインを中央に寄せることができるのはとても大きい。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23472989.png

 しかも,NLシリーズのいくつかの写真を見ていると,前側ドライブトレインはチェーンリングをクランクスパイダーの一番内側に取り付けている。中央線からチェーンラインまでの距離をできるだけ狭めているのだろうと考えられるのだ。

 ということで,構造的に横方向に幅が取れないフレームの場合は,このセンターBB形式を取ることにより,フレーム剛性を上げることができると考えられるのである。この構造をとらなかったLiliumⅠでは前から後ろまで同じ側をめいいっぱい引かれていたことによりポヨポヨ撓んだのである。

 もし仮に,センターBB方式を取らず,細いパイプを使ってフレームを製作するとするのならば,Lightning社のP-38のように横方向のトラスやトライアングル構造を取り入れた,横幅を持ったフレームが必要と考えられるだろう。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_20392507.jpg

 Lightning社のP-38とはこの子である。2本のパイプでフレーム上側が構成されているのがお分かりいただけるだろうか。上2本のパイプはヘッドまで伸びてきている。ちなみにこれと同型車に試乗する機会があったが,目一杯踏んでも撓むそぶりもなく横剛性は抜群に高かった。(画像は拾い物)

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_20412082.jpg

 ちなみに同社別機種らしいPhantomは細パイプ組ではなく単管パイプ構造となったが,やはり極太パイプになっているし(画像は拾い物),

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_20424610.jpg

 リカンベントだってトレンドを追うわけだから,Lightning社もカーボン素材を使ってリカンベントを作るわけだけれども,当然さらに極太になっていた。まぁカーボンなんで素材的にも幅を取らないといけないという側面もある。(チェーンステー部分なんざこの太さが左右に2本あるわけだ)(画像は拾い物)

 しかもLightning社は登りに強くなるようなリカンベント設計で有名で,シートを立て後輪をできるだけ前に寄せている。そうするとドライブトレインは短くなる。引っ張られる距離は短いほうが撓みにくい。Lightning社はフレーム幅を十分に取り,できるだけ前後短くして駆動効率を上げているのではないかとも考えられる。

 というわけでこの話の落としどころを見つけると,ミドル~ハイレーサーにおいて,このセンターBB方式の駆動系で設計することにより,横剛性の確保ができると考えられるわけである。


 なんでミドル~ハイレーサー限定なのかって?このNLシリーズのようなセンターBB式細パイプ組トラスフレームは,ローレーサー化がなかなか難しいのだ。なぜならば,シート高を下げるとフレームの縦幅を狭くせざる負えないからだ。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_23035716.jpg

 NL-3では比較的シート高も高く,シート前のトップチューブとダウンチューブの間隔が比較的広く設計されているので,縦に撓みにくくなっているだろう。センターBBも前に寄ったので前側のフレームがチェーンに引かれる距離も短くなり,そうするとリアの三角も前後に大きくなるのでさらに撓みにくくなっているだろう。何度も言ってる気がするが所有者曰くきわめて固いらしい。幅を取れるということは剛性も上がる。幅が取れないものは剛性が下がる。

 まぁようするに,そもそも細パイプトラス組は,幅の取れないプアな設計をしてしまうとフレームが柔くなってしまうのだ。

リカンベントの よこごうせいについて_d0088420_22470010.png

 ローレーサー化するということは,シートを下げる事である。シートを下げるにはフレームの縦幅に制限が出てくる。下げれば下げるほどクリアランスはなくなり,2本のパイプの間隔は上記の図の右側のように狭くなる。狭くなるということは構造体として幅が取れないので強度的にプアになる。しかもラーメン構造はねじれ方向に大変弱い。特にヘッドチューブからシート下まで伸びる2本のパイプの間隔が狭くなると,縦に捻じれる。この部分が縦に捻じれると横剛性が落ちる。

 なんで低く低く作ったローレーサーは横剛性も結果的にプアになってしまう。プアにしたくなければパイプ径増大だが,そもそも縦に狭いローレーサーのフレームのパイプ径を増やせばパイプ同士の幅はより狭くなるので,トラスやトライアングルとしての意味があまりなくなる。そうなると,トラス組にする必要がどこかに行ってしまう。意味がないことは重量増につながる。

 そもそもパイプ径を増大をするということはフレーム横幅も増える。フレーム横幅が増えれば横剛性は上がる。LiliumⅡでは60mmパイプで十分横剛性が確保できた。単管パイプ構造のLiliumⅡはなんだかんだ登りもこなすのだ。剛性は十分出る。そうなると,単管パイプ構造のフレームにセンターBB方式の構造を取り入れる必要そのものが無くなってくる。変にパイプ組み合わせて作るよりは,極太パイプ一本のほうが遥かに軽く強度が出る。簡略化できるのならば簡略化したほうが良い。

 こういった理由から,このトラス組センターBB方式はフレーム幅が取れなくなるローレーサーには向かないと考えられるのだ。

 数行前にも触れたが,LiliumⅡでセンターBB方式を採用しなかったのは,あまり意味が見出せなかったから。

 要するにフレーム幅を十分にとって,超大径アイドラーに極太シャフト使って剛性を上げれば,仮にNLシリーズの駆動効率ほどではなくとも十分自分が求める良好な駆動効率が得られ,剛性も得られ,且つ設計の自由度が生まれる。

 しかもトラスフレームだとラグの製作点数が倍増して精度も出しにくい。自作erとしては中々不都合の多い構造なのだ。

 じゃあ何故NakagawaがこのセンターBB形式で作っているのか,というと,「元々ロードバイクを設計している所」だからだ。

 センターBB形式だとリアはロードバイクと構造はほぼ同じである。つまり設計理論にロードバイクのトライアングルフレームや,ママチャリのようなスタッガードフレームの設計が生かせたり,ラグそのものも流用できるのだ。強度計算上パイプの選定も入念に行えるわけで,クロモリロードからリカンベントに技術投入するには優れた構造をしている。というか後に聞いた話だが,ロードバイクの設計は「BBまわり」から始めることが必須らしい。なるほどというわけである。

 何はともあれ,NLシリーズは2010年より前のもので,これだけ入念に考えられて設計されているというのはなんというか衝撃的である。試乗の機会に恵まれるのであればぜひ一度乗ってみたいが,機会が訪れるのは中々難しいだろう。

 ここまで色々書き連ねたが,この考察に「アイドラー」という要素はほとんど考慮せずに書き綴っているので,アイドラーの要素が加わると多分話は全く変わってくる。書き綴った内容はできるだけストレートなチェーンラインを想定している。

 アイドラーを複数個かませれば,チェーンテンションの向きを変えることができるので,フレームの剛性に沿ってテンションをかけることもできると考えられるが,アイドラーを増やすとチェーンフリクションそのものが増大するという二律背反なところがある。

 NakagawaのNLシリーズはパワー側のチェーンにアイドラーが挿入されていないというのも非常に大きい。センターBBのチェーンリングがあるではないかと言われそうだが,この左右のチェーンリングはアイドラーではなくきちんとしたパワー伝達機構として動作する。伝達装置であるのならばパワーロスは少ない。NakagawaのNLシリーズは登りに強いという。パワー伝達のためにはできるだけストレートなチェーンラインが望ましい。チェーンがぶつからないように逸らすだけのアイドラーはパワー伝達には向かない。ロスするだけだ。

 リカンベントのフレームというものは,設計するにしても市販品を組み立てるにしても,チェーン問題に悩まされる難儀な乗り物であった。

 実際にリカンベントを自作しようと考えられている方は,自分の制作環境と,持ちうる技術とで,フレーム構造が変わってくると思う。私のLiliumⅠからⅡまでの変遷は,単に剛性があげられたからではなく,作れる環境が整ったからでもある。

 どの構造も一長一短があり,それぞれの良さがある。この構造だからダメ,というわけでなく,多方面から考えると良いだろう。

 色々考えてリカンベントに触れてほしいなと思う。

 長文おわり!

by steadycat | 2020-05-31 12:27 | 自作リカンベント | Comments(0)

最近の動向と更新内容。


by steadycat
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28